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玉藻×こより編 その1
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「玉藻様~、起きてますか~?」
嬉しそうな顔のこよりが、ガラッとふすまを開けて部屋に入ってくる。
その手には四つの輪、これは神那津川学園の生徒につけられているお仕置き用ブレスレット、妖怪用に作られたものである。
これでいじめ甲斐のある妖怪を捕まえたら、生徒会長に少しの間貸す。
そんな取引を経て1つだけこよりが持っていたのだ。
「まだ寝てるんですか~?これ、つけちゃいますよ?」
言ってるそばからリストをつけ始めるこより。
もう待ちきれないという表情でせっせと四肢にブレスレットを取り付け、縄をはずし玉藻前をうつぶせに寝かせる。
「あ、あ~……黒音こより、懲罰10分」
こよりが呟くと、玉藻前の体が勝手に動き、その体を大の字の状態で静止させる。
その無防備な裸体を見て、こよりはゾクッと震えながら自分の手を見る。
先ほどは警戒して式神ごしだったが、今度はこの手で……
自分の手をわきわきと蠢かせ、それを徐々に玉藻の腋の下に近づけていく。
何百年も生きたとは思えないほどきれいな肌、きめ細やかなそれは、くすぐったらよく滑りそう……
その腋の下の窪みは、まるで見る者をくすぐりたい衝動に駆りたてるように、妙に色っぽくたたずんでいる。
そう、本当に何か術にかけられたように……こよりの手は腋の下に吸い込まれて……
…
……
…………
「……んっ……はっ!!」
「お目覚めかの? こよりとやら」
閉じていたはずの玉藻前の顔が、笑ってるようにみえる。
(おかしい、さっきまで私は…………っ!?)
「……ほう、なかなか状況判断が早いの。言うだけのことはある」
立ち上がったこよりは懐に手を差し込む。幸い式神の紙は取られていないようだ。
「はっ!!」
札を取り出す予備動作無しで、三枚。
霊力によってコントロールされているそれは玉藻前の手前で急速に曲がる。
次に玉藻前に向かったそれは、左右と後ろから再度襲いかかった。
当たると思ったその時、空気がはじける音がして、三枚の札は地面に散った。
「うそっ!?」
「平和ボケしていて捕まったとはいえ、そこまで落ちぶれてはおらんよ」
珍しく真剣な表情の玉藻は、札を落とした尻尾をそのままこよりへ向かってのばしてゆく。
しゅるしゅる――
「ちょ、な、何……んひゃ!? ふひゃあああははははは!! しっぽっ、尻尾がくすぐったいいいいっひっひひひひ!!」
玉藻前の尻尾がこよりの手足に巻きついてきた。
白い素肌が覗いている手首や足首の上を、ふさふさとした細かい尻尾の毛がしゅるしゅると撫でてゆく。
たったそれだけの刺激なのに、こよりは笑いをこらえきれず笑い出してしまう。
「おやおや……そんなことでは先が思いやられるのう?」
すでに涙目になりながら必死で笑い声を抑えようとしているこよりを見て、玉藻前は嬉しそうに口元を吊り上げた。
「ではまず、わらわと同じ格好になってもらおうかの?」
玉藻前と同じ……つまり全裸にされるとわかったこよりは近づいてくる尻尾から、身を捩じらせて逃げようとするが、四肢はがっちり拘束され、さらに動くたびに毛が当たってくすぐったくなるので、しばらくするとその抵抗は完全に止まった。
抵抗できないのをいいことに、玉藻前の尻尾は器用にこよりの巫女服を脱がしてゆく。
……もちろん、いたずらは常に忘れない。
だんだんと現われてゆく白い平原に、いじわるな尻尾の先がちょろちょろと寄り道をすると、
不安と羞恥で泣きそうになっていたこよりの顔は、たちまち笑顔に変わる。
玉藻前は久々の遊び相手に、あふれんばかりの笑顔でその反応を楽しんでいた。
……そんなこんなで、服をすべて脱ぎ終わった時には、こよりはすでに息も絶え絶えになってしまっていた。
「むぅ…少々はしゃぎすぎてしもうたか?」
うなだれて、荒い呼吸を繰り返すこよりをみあげ、玉藻前はポリポリと頭をかいた。
「ちょ、ちょっと、はぁ……はぁ……も、もう、十分でしょう? 早く、放してくれません?」
「今のは妖怪同士だとただのじゃれあい程度なんじゃがのう……」
ぽつりとつぶやいた玉藻前の言葉に、こよりは短い悲鳴を上げる。
「そこで提案なのじゃが……」
「この状況では提案というより脅迫と言ったほうが…うひゃぁっ!!」
「……ん? 何か言ったかの?」
会話中に脇腹を撫で上げた尻尾をわざとらしくゆらゆら揺らしながら、澄まし顔で答える玉藻前。
「……なんでも、ありません」
いつもは強気なこよりも、黙らざるを得なかった。
「本気でくすぐるのを抑えてやる代わりに、わらわをこの家に置いてはくれんか?」
「……は? ちょっと!? 退魔師の家に住みたいなんて、本気なんですか!?」
「別に身の危険も感じぬし、いい遊び相手もおる。食べ物くらいは自給するので心配はいらんぞ?」
現実にこういう状態だ。玉藻前の中ではもう自分は敵じゃないのだと、こよりは心の中で諦めのためいきをついた。
「……ちなみに断ったら私は」
「その感度では本当に死んでしまうかもしれんのう?」
急に悲しそうな顔になって下を向く玉藻前。
本当に表情がころころ変わるものだと、こよりは思った。
過去何人もの人間が騙されても仕方がない。
「わらわも人殺しにはなりたくないんじゃ……どうか呑んでくれんかの?」
「もう……わかりました! いいでしょう、住まわせてあげますよ! でも、私は常にあなたを狙っていますからそれを忘れないでくださいね?」
「そうか! それはいいのう。これからよろしく頼むぞ、こより」
破顔一笑、ここまで無邪気な笑顔でほほえまれるとこよりもつい顔を赤くしてしまう。
しかもこれは演技ではないようだ。本当に嬉しかったのだろう。
こよりも、予期せぬ住人に悪い気はおきなさそうだと思った。
「この契約が無事成立した所で、次にいってみようかの?」
そう、お互いこのまま喜んでばかりもいられない。
こよりの体は、相変わらず尻尾に巻きつかれて動けないからだ。
そしてこれが意味するのは……
「わらわを子供扱いした罰を、与えねばならんからな……」
これからが本当の(くすぐり)地獄であると言うことである。
続く